期待値が同じはゲームバランスにならない説

先日、行動経済学のわかりやすい本を買って読みました。

その中のいくつかがゲームデザインの考えに役立つのではないか? と思い立ち早速実験してみることにしました。

というのも、行動経済学の考えが実にゲームと似通っているな、と思ったのです。

今までの経済学は、「人間は必ず合理的な経済行動をするもの」という前提で構築されてきました。ところが普段の私たちは、それでは説明できない非合理なふるまいを多くしています。

行動経済学とは、従来の経済学では説明しきれない人間の経済行動を人間の心理という視点から解明しようとする新しい経済学です。

面白いですよね。不合理を愛する。まさにTRPGゲーマーの行動心理。

今回、参考にしたのはプロスペクト理論と損失回避の法則です。

簡単にこれらを説明すると「同じ量の得と損を比較した時に、損のほうが約二倍も重大に感じてしまう傾向がある」という。

例を出すとわかりやすいですね。あなたは次のうち、どちらを選ぶでしょうか?

「確定で100万円をもらえる」

「コイントスで表裏を当てれば、200万をもらえる、ただし外せば1円ももらえない」

期待値を考えれば、どちらも同じですから、どちらを選んでも期待値的には等しいわけです。

しかし、大概の人は前者を選びます。

逆に、今から借金を負わなくてはならないとき

「確定で借金を100万円を背負う」

「コイントスで表裏を当てれば、借金はナシ。外せば借金200万円」

こちらだと、どうでしょう。後者を選ぶ人は結構いるのではないでしょうか。しかし、期待値はこちらも変わりません。

簡単に言えば、得られる利益は確実に、損益はリスキーでも回避したい、と考えてしまう。これらが、損失回避の法則です。

期待値が同じだったら、確実を取るわけですが……期待値が違うとどうでしょう。

「確定で100万円もらえる」

「コイントスで表裏を当てれば、500万円をもらえる、外せば1円ももらえない」

すこし、後者を選びたくなった人が出てきたのではないでしょうか? 理論上、だいたい2倍〜2.5倍ぐらいで、損得の感覚が等しくなるみたいです。

じゃあ、これをTRPGのデザインで考えたらどうなるか?

この記事の本題です。

得=与ダメージ 損=被ダメージ と仮定してみましょう。そして上の例をもとに仮説を立てるとすれば……期待値が同じ武器はバランスが取れていないんじゃないか、ということになります。

次の二つの武器があったとして

「命中率が80パーセント、ダメージは10点」

「命中率が40パーセント、ダメージは20点」

この二つの武器の与ダメ期待値は、両方とも同じ「8点」です。机上では同スペックであるため、優劣はない筈です。理論上。

しかし、仮設の上では後者は「産廃武器wwww」と言われてしまう可能性が非常に高いです。そのような雑魚武器と呼ばれるデータを作るのは、ゲームデザイン的には如何なものかと。

じゃあ命中率が下がる、つまり得られる可能性が下がることに対して、利益がどのぐらいあれば等感覚になるのか。twitterでこのようなアンケートを採ってみました。

この投稿時点で、素で倍率を間違えて計算を間違えていまして。プロスペクト理論に則るなら、Bの武器の与ダメは40点ぐらいに設定しなくてはいけませんでした。

というわけで、サンプル数が減りましたがこちらが40点の場合。仮説ではこちらは五分五分になる筈でした。

一つ目の投稿では、期待値の倍率は「A:B=1.0:1.35」

これだとその他を除くと、おおよそ「67%:33%」という割合になります。

すでにBのほうが与ダメ期待値が高いはずなのに、ダブルスコアでAを選択されています。もし、これで期待値が同じであれば更に差が離れていたでしょう。

二つ目の投稿では、期待値の倍率は「A:B=1.0:2.0」ちょうど二倍の関係です。

その他を除くとおおよそ「45%:55%」という結果になりました。おおよそ半分に近い結果になったのかな、と言ったところです。

命中が高い武器、命中が低い武器、等しく手にとってもらうには「期待値を倍近くにしなくてはならない」

ということがわかりました。

期待値による等倍こそがバランス、と考えていた自分にとっては中々、衝撃な結果となりました。

9000票以上入っているので、Twitterのアンケートという範囲内ではサンプルが集まったほうでしょう。有為な差と断言できずとも指針程度には考えられそうです。

この感じだと、期待値の倍率が1.8倍でようやく命中率を半分にしても許される、といったところでしょうか。

程度はさておき、少なくとも期待値が同じだからといって命中を半分にするのは、かなり偏ったバランスになっている、ということは言えそうです。

特に、出目が悪いから! と安定した利を追求してしまうTRPG民をうならせるには、このぐらいのロマンを魅せる必要がある、と。

先の例で言えば、確定で100万円欲しい! と考えるのが理想であるとおり、確定でダメージを与えたい! という心理が働くのでしょう。

では、逆に受ける被害に対しては、リスキーでも回避したい、と考えるわけですが。それに従い次のような質問を設けてみました。

今回は、倍率を五分五分にしてみました。予想では、回避のほうが高くなるはずでしたが……ガードのほうが高かったですね。意見を見てみると、「ガードだと二回は耐えられるから」ということでした。確かに、回避に失敗したあとガードするのと、ガードしたあと回避に失敗するのでは同じ死ぬでもチャンスの回数が違いますね。ある意味、損失を最大限に回避する行動を取る、という選択を選んでいた、ということでしょうか。

さて、多くが場況による、という反応がいくつかありましたが

場況によって最適解を必ずしも全員が選ぶ、という考えが経済学であり

場況によっても最適解を必ずしも選ぶとは限らない、というのが行動経済学であると考えられるため

今回は場況を特に指定せずアンケートをとりました。どのみち、場況を詳しく設定したところで、あまり意味はないんですよね。

ゲームデザインをして、ユーザーに触れてもらった時のフラットな感性に対して、どう抱くか、という部分を見たかったのもありますが。

今後のデザインの方向性として、新しい発見ができたなぁ、と面白い試みでした。

他にもデザインに応用できそうな行動経済学があったので、今後も隙があれば実験してみたいところです。

拡散してくださった皆様方、ありがとうございます。

さて、冒頭に引用した行動経済学についてですが

(クリックでAmazonに飛びます)

行動経済学まんが ヘンテコノミクス(佐藤雅彦 菅俊一 高橋秀明 著)という本です。

サザエさんをやろう、と巻末にあった通り、サザエさんのような親しみやすいテンポで、我々の身近な体験に即しながら、漫画でわかりやすく解説してくれています。行動経済学の取っ掛かりとしては、とても優しく楽しむことができました。

ゲームデザインを行なっている方は、行動経済学はかなり参考になってくるのではないか、と思いますので、ぜひ初めの一冊として読んでみてはいかがでしょうか。

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